| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-188 (Poster presentation)
環境変動下での生態系機能の安定化は、生態学における重要な課題である。既存研究では、種多様性が高いほど、種間や空間的な環境応答の違いによって、生態系機能は安定化することが示されてきた。しかしながら、平均的な種数が異なる地域間を対象として、α・β多様性が生態系機能の安定性に及ぼす影響に差異があるかを検証した例はほとんどなく、地域の種プールに依存して生態系の安定化機構は異なる可能性がある。本研究では、炭素シンクとして重要な湿原生態系を対象に、バイオマス生産の時間的安定性に対する植物のα・β多様性の影響を地域間で比較した。
研究対象地は、青森県八甲田山系の2湿原群(毛無岱:10~15種、高田谷地:15~25種)とした。各湿原において、6トランセクト(1×20m)内のプロット(1×1m、5個)の植物種数を調査し、プロット内の平均種数(α多様性)とプロット間のマルチサイトβ多様性をトランセクト毎に算出した。バイオマス生産の指標として、群落の葉面積指数と高い相関があることが知られる拡張植生指数(EVI)を用いた。植生調査地点のデータを対象に、2016~2020年のEVIの平均/標準偏差を算出し、これを安定性の指標とした。環境変数として、標高、地形湿潤指数、pH、栄養塩濃度を加え、一般化線形モデルによって、安定性に対するα・β多様性の影響を地域間で比較した。
α多様性の影響は種数が多い地域のみで有意であり、種数が多いほど安定性が低下した。湿原群集では単位面積あたりの種数が多いため、種間の環境応答の多様性が飽和し、各種レベルでの安定性の低下が顕著になったことが要因として考えられる。一方で、両地域においてβ多様性が高いほど、有意に安定性が向上した。湿原内の微地形・環境の違いに伴う群集の不均一性によって、バイオマス生産は安定化し、この効果は平均的な種数の差異に依存しないことが示された。