| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-190 (Poster presentation)
台風に起因する樹冠面積の減少では、倒木等による大規模な「倒木ギャップ」がよく注目されるが、落枝等による「小規模ギャップ」も存在する。小規模ギャップは多くの個体で生じるため、林分全体で失われる樹冠面積は無視できないほど大きい可能性がある。またギャップによる植生更新においても、倒木ギャップが注目されることが多いが、小規模ギャップの発生が複数の樹冠の間の競争に影響し、林冠を構成する樹種の優占度を変化させる可能性もある。これまで小規模ギャップの評価は技術的に難しかったが、近年のUAVの普及により効率的かつ正確に行えるようになった。そこで本研究では、2018年に台風被害を受けた京都市東山において、台風前の2017年と台風後の2018年、2021年のUAVの空撮画像から樹冠投影図を作成し、台風前後の樹冠面積の変遷を詳細に評価した。具体的な目的は、調査区内の全林冠木と優占種3種(ヒノキ、コジイ、コナラ)について、台風によるギャップのうち倒木ギャップと小規模ギャップの割合を定量すること、そして台風による樹冠面積の減少率や台風後の回復率の違いを明らかにすることである。
台風後に減少した樹冠の総面積のうち、倒木ギャップによるものは60%であり、小規模ギャップによるものは40%であった。コナラ集団は、コジイやヒノキ集団よりも大きく台風被害を受け、特に小規模ギャップの割合が大きかった。台風から3年後には、コジイやヒノキ個体の樹冠面積は台風前以上に回復したが、コナラは低いままであった。さらに個体サイズを考慮した解析でも、コナラの樹冠は被害を受けやすかったが、樹冠の回復速度は種に依存しなかった。以上より、台風による小規模ギャップはコナラの劣勢を促し、ヒノキやコジイの優占度を増加させることが示唆された。