| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-191 (Poster presentation)
農地景観内の水域は湿地性植物の生育地として機能していることは確認されている。しかし、異なる性質を持つ水域を比較、評価していない既存研究が多く、また、自然度の違いによる水域の特徴を押さえ、景観内の種多様性の構造をより正確に理解することが求められている。本研究は自然度及び形状の違いに着目し、多様な水域を比較することで農地景観内の湿地性植物の種多様性の構造を明らかにすることを目的とした。
千歳川流域の農業地帯で農業排水路(以下、水路)、河川、ため池、残存湖沼の計24水域で植生と環境を調査した。調査データを用い、α多様性(各水域の平均種数、Shannon-Wienerの多様度指数)、β多様性(水域の共通/固有種数)、γ多様性(各水域の総種数)、種構成(DCA)、環境を水域間で比較した。α多様性と環境の比較ではGLMを用いた。
水路は種多様性が最も高い傾向で、種構成は沈水植物が優占し、他の水域とは異なった。流速と水深の季節変動が要因と考える。河川は景観内で中程度の種多様性を持ち、湿生種で特徴づけられた。長期の渇水と高栄養塩負荷による水生種の消失と湿生種の繁茂が考えられる。ため池は種多様性が最も低く、種構成が均質であり、水域の孤立と深い水深が要因と考える。残存湖沼は河川同様、中程度の種多様性だった。水深が浅く、湿生、抽水種の生育環境となった上、止水を好む浮遊、浮葉種も生育し幅広い種構成をとった。本研究より、農地景観では異なる特性を持つ複数の水域がそれぞれに特有の種を保持することで景観全体の多様性が維持されていることがわかった。種多様性の保全は、基本的には現行の管理(水路での流水の確保、水落とし、残存湖沼での貧栄養状態の維持)が妥当と考える。さらに積極的に対策をする場合の優先順位は①水路(コンクリート化、直線化の停止)、②残存湖沼、河川(河畔林の一部伐採)、③ため池(浅い水辺の創出)が良いと考える。