| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-195 (Poster presentation)
20世紀後半以降、人間の土地利用変化により農業生態系における生物多様性の減少が世界的に進行している。日本の代表的な農地においても、圃場整備や管理放棄などの農地利用が草原性植物種の多様性を減少させる要因であることが明らかとなっている。
加えて、水田立地環境の違いによりもたらされる水分量などの土壌環境条件の違いが、植物種の多様性や絶滅危惧種の分布に与える影響が示唆されてきた。先行研究では水の溜まりやすさの指標(FAV)を用いて、水の溜まりやすい場所(FAVの高い場所)に成立した水田畦畔は湿潤環境を好む湿性種の生育地として機能していることが示された。しかし、水田畦畔(里草地)に生育する草原性植物種、特に保全上重要となる絶滅危惧種の分布と水田立地環境の関係について検証を行った先行研究はない。
そこで本研究では、FAVの低い場所に造られた水田の里草地には乾性環境を好む草原性絶滅危惧種が多く分布するという仮説を立て、検証した。兵庫県内の水田畦畔およびため池堰堤の里草地を対象に方形区による植生調査に加え、より広範囲を対象とした踏査による絶滅危惧種の分布調査を行った。調査地周辺の土地利用や立地環境を定量化するために、QGISを用いて調査した里草地を含む50×50 m2メッシュを作成し、各メッシュにおけるFAV、標高、異なる土地利用ごとの面積をそれぞれ算出し、解析に用いた。
解析の結果、方形区当たりの在来草原性植物種数はFAVと関係がみられなかったのに対し、草原性絶滅危惧植物種は、FAVの低い場所(地形的に滞留する水分量の少ない場所)、高標高に成立した里草地に多く分布することが示された。このような中山間地で水の流出量が多い地形の場所では、水田成立以前の自然環境下において比較的乾燥した環境が広がっていた可能性が高く、そのような乾性環境を好む草原性の絶滅危惧植物の生育環境となっており、水田成立後はそれらの植物が里草地に移り住んできたことが示唆された。