| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-197 (Poster presentation)
近年、全国的に半自然草原が減少しており、草原性草本植物の絶滅が問題となっている。ため池は堰堤として法面を草本群落として維持する必要があり、刈り取り等の植生管理が継続され、小規模ながら半自然草原と同様に草原性草本植物のハビタットとして機能してきた場所もあり、地域の生物多様性を保全する上で重要である。そこで本研究では希少な草原性草本植物が残存するため池法面に成立する群落の特性や立地環境条件、また植生管理との関係性を把握し、保全策を検討することを目的とした。調査地は長野県伊那盆地南部のため池法面で行われた。調査方法は植物社会学的手法を用いた植生調査、立地環境調査が実施された。その結果、トダシバやチガヤ、オカトラノオ等の多くの草原性草本植物やスズサイコ(国・県:NT(準絶滅危惧種))やユウスゲ(県:NT)、クララの希少な草原性草本の生育が確認された。TWINSPAN解析では8群落型(A~H群落型)、13種群に分類された。特にC・D・E群落型では希少種が全て出現しており、ススキおよびトバシバ、チガヤ、メガルカヤ等のイネ科多年生草本の優占度が高かった。また共通種群には多くの草原性草本植物が含まれており、全群落型において草原性草本植物が出現していることが確認された。結果から、在来の草原性草本植物の出現頻度が高く、また外来植物の優占度が低かったことから調査地全体において半自然草原が残存していることが確認された。そのなかでも構成種や優占度からC・D・E群落型はかつての半自然草原に近い群落型であると考えられた。一方、ススキ等の優占度の高いことが課題であり、これは管理の頻度が以前よりも低下していることが原因と考えられ、保全を目的とした植生管理が必要であることが示唆された。植生管理では草原性草本植物や希少種の繁殖時期を避けた刈り取りを行うことや競合種を選択的に除去することが重要と考えられた。