| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-200 (Poster presentation)
エンレイソウ属のコジマエンレイソウ(Trillium. smallii, 2n=6x=30, 以下コジマ)は、同属のオオバナノエンレイソウ(T. camschatcense, 2n=2x=10)とエンレイソウ(T. apetalon, 2n=4x=20)の種間雑種であるトカチエンレイソウ(T. yezoense, 2n=3x=15)が倍数化することで形成された種である(Kubota et al. 2006)。コジマは道内において複数の局所集団を形成することが知られているが、それらの集団が単一の起源に由来するのか、集団ごとに独立に交雑と倍数化をしたことに由来するかなど、形成過程は明らかになっていない。コジマの種分化過程を明らかにするには、形態的・遺伝的変異の調査を実施して、コジマ集団間での系統関係を明らかにする必要がある。そこで本研究は、道内のコジマエンレイソウ6集団において、染色体の本数に基づいてコジマを判別し、花器形態の集団間比較を行った。コジマは親種であるエンレイソウと形態が類似していることから、鮫島・鮫島(1987)の記載にある形態的特徴(萼片,雄蕊の葯と花糸の長さの比)による見分け方に基づいて野外でコジマを判別しサンプリングした。染色体分析の結果、コジマと判別し採取した個体の中に、染色体数が20本でエンレイソウと同定された個体があり、6集団のうち5集団で確認された。染色体によってコジマと同定されたサンプルを用いて花器形態を集団間で比較したところ、コジマ集団間での形態的変異があることがわかった。さらに、採取時にコジマと判別されたものの染色体分析でエンレイソウと同定された個体についても花器形態を調べたところ、集団間で変異が見られたとともに、同所的に生育しているコジマと類似していた。すなわち、コジマは異なる地点の同種よりも、同じ地点のエンレイソウに類似していた。以上のことから、道内のコジマ集団においては種間の変異よりも、集団間による変異の影響が大きい可能性があり、コジマエンレイソウは局所的にそれぞれ独立に種分化を遂げている可能性が示唆された。