| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-204  (Poster presentation)

ネジバナの花序におけるランダムな螺旋鏡像多型とねじれの強さの変異
Stochastic chiral dimorphism and the variation in divergence angle in inflorescence of Spiranthes sinensis

*濱田若夏子(千葉大・理), 高橋佑磨(千葉大・理・院)
*Wakako HAMADA(Fac. Sci., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

植物の花序には種間で豊かな多様性が存在する。花序形態は繁殖戦略に関係していることがわかっている。一方で、花序形態の種内多様性の存在やその成立機構、生態的機能の理解は充分に進んでいない。ネジバナ(Spiranthes sinensis)の花序には明瞭な螺旋構造が出現し、回転方向と開度(螺旋の強度)に変異がある。本研究では、ネジバナにおける回転方向の決定機構と開度の変異の成立機構、回転方向と繁殖成功度の関係の検証を行なった。複数地点で花序と葉序の回転方向と開度を計測したところ、いずれの地点でも回転方向の左右性の存在比に偏りはなかった。同一株に2つの花序が存在する場合の回転方向の組み合わせは、ランダムに出現すると仮定した場合の予測から逸脱していなかった。開度の平均値は、葉序で140°程度、花序で60°程度であった。一般に、花序と葉序は同程度の開度をもつため、本種の花序では発生の過程で開度を低下させる形態的変化が起きていると予想された。そこで、花序柄と花序軸のねじれの方向性や強度を測定したところ、花序柄ではねじれがなかったものの、花序軸では、花序が右回転の個体では左向きにねじれ、花序が左回転の個体では右向きにねじれており、花序の螺旋をより戻していることがわかった。なお、花序軸のねじれの強さでは、花序の開度の変異を説明できなかった。最後に、野外において各表現型の結果率を測定したところ、回転方向自体は結果率に影響しなかったが、回転方向の多様性が高い地点ほど、結果率が高くなる傾向が認められた。以上の結果より、ネジバナの花序の回転方向の種内変異が、葉序の螺旋構造における鏡像多型と同様、発生のゆらぎによってランダムに生じていることや、花序の緩やかな螺旋構造が花序軸のより戻しで生まれていることが示された。また、花序構造の種内多様性が集団レベルでの繁殖成功度に影響を与えていることが示唆された。


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