| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-206 (Poster presentation)
雌雄異株植物は、雄株から雌株へと個体間で花粉が運ばれることで種子繁殖が成立する。雌雄異株植物コウライテンナンショウは、花序上部から揮発性有機化合物 (VOCs) を放って昆虫を誘引し、雌雄株間で送粉をおこなう。花序は筒状の苞葉からなる仏炎苞で覆われており、雄株はその基部に穴があり、体に花粉を付着させた昆虫が脱出することが可能である。一方、雌株には穴がないため、訪花した昆虫は仏炎苞内に閉じ込められる。よって、雄株から雌株への花粉の授受を成功させるためには、昆虫を雌株より前に雄株に訪花させる必要がある。本研究では、雌雄株間で訪花昆虫を誘引するVOCsを放出するタイミングが異なることで、雄株から雌株への訪花が成立していると考え、その検証を行った。
北海道石狩市の集団を対象に、雌株・雄株から放出されるVOCsに加え、一日の中での時間帯や開花からの経過日数を考慮したVOCsの捕集を行った。その結果、VOCsの組成が雌雄間および開花からの経過日数によって異なることがわかった。また、VOCsの捕集と同じタイミングで雌雄それぞれの訪花昆虫数を調べた結果、開花初期(1-5日目)は雌株よりも雄株で、中期(11-15日目)は雄株より雌株の方で、訪花数が多かった。さらに、VOCsの組成と訪花昆虫数の相関関係をCanonical Analysis of Principal coordinates (CAP) で解析したところ、訪花数の増加には複数のVOCsが関連していた。そのうち2-Ethyl-1-hexanolについては、ろ紙に含ませて仏炎苞内に入れた操作実験で訪花数を増加させることを確認した。また、CAPによって明らかになった訪花数に相関するVOCsの複合成分の放出量を雌雄間で比較すると、開花初期(1-4日目)は雄株で多かったが、中期(9、15日目)は雌株の方が多かった。以上より、コウライテンナンショウは2-Ethyl-1-hexanolを含むVOCsの複合成分が開花初期には雄株で、開花中期には雌株で、多く放出されることで雌株よりも雄株に先行して送粉昆虫を訪花させている可能性がある。