| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-210 (Poster presentation)
褐藻コンブ目は大型の海藻で,一次生産者として重要な役割を果たす。その生活史は,巨視的な胞子体と微視的な配偶体の二世代で構成される。成熟した胞子体から放出された遊走子はやがて雌雄の配偶体となり,これを保存株として長期間維持することが可能である。しかしながら,このように一定の環境下で長期間保存された未成熟の配偶体を成熟誘導することは難しく,詳細な培養条件は解明されていない。そこで本研究では,卵形成の有無で成熟が判別できる雌性配偶体を用いて,光環境の変化に着目した成熟誘導実験を行った。藻体は日本列島沿岸で比較的広範囲に生息するアラメEisenia bicyclisを用いた。まず,4つの地域由来のアラメの配偶体を,成熟を抑制する条件である赤色LED光下(10 µmol photons m-2 s-1)で1年以上保管した。その後,配偶体を剃刀で粉砕し,光質(赤色LED光,白色LED光)と光強度(10,40,70 µmol photons m-2 s-1)と日長(14L:10D,9L:15D)の光環境を組み合わせた12条件に2週間供し,3日毎に各個体の卵形成数を測定した。これらの光環境要因が,卵形成数にそれぞれどの程度の影響を与えたかを調べるため,GLMを用いて解析した。その結果,光質を白色LED光に変化させた時のみに全個体で卵形成がみられ,赤色LED光下では卵形成は全く起こらなかった。その中でも,光強度10 µmol photons m-2 s-1,日長14L:10Dの条件下で,全個体の卵形成数が最大となり,各個体で10個以上の卵がみられた。したがって,長期間保存した配偶体の卵形成には光質の変化が関与していることが示唆された。さらに至適光条件については,胞子体の採集地域によらず一致している可能性があり,赤色LED光下に長期間保存することによって配偶体内で起こる遺伝子発現の変化の解明にも繋がると考えられる。