| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-212 (Poster presentation)
海産種子植物である海草からなるアマモ場は、多様な動植物の生息場所や産卵・稚仔魚の生育場として利用されており、生態学的にも水産学的にも重要な沿岸生態系の構成要素である。アマモ場が形成される沿岸域では、その地形の連続性により陸域の影響が海域にまで及ぶことがあり、崖崩れはその代表的な例であるがこれまでその影響の実態についてはよくわかっていなかった。本発表では、崖崩れによる土砂の流入によって岩礁潮間帯が埋もれ、アマモ場が拡大した事例を対象に調査研究を行った結果を報告する。調査は2021年5月に北海道東部厚岸町アイニンカップで発見された、崖崩れにより拡大したアマモ場に生育する海草オオアマモ(Zostera asiatica)を対象に行った。まずドローンを用いて写真撮影を行い、崖崩れの前後でアマモ場の分布がどう変化したのかを評価した。その結果、特に崖に一番近い潮間帯では約18m2のオオアマモ群落が新規に形成されたことが確認された。この群落を拡大区として、崖崩れの前後で分布に変化がない潮間帯のオオアマモ群落(定着区、約15m2)と比較を行った。繁殖期である6月から8月にかけて、拡大区と定着区の間でオオアマモの形質を比較したところ、株密度は定着区の方が有意に高く、繁殖率は拡大区の方が有意に高いことが分かった。対して栄養株や生殖株の形態ならびに花序の数や形態では、拡大区と定着区の間に有意な差は見られなかった。また花序や種子の成熟度合では、一部の採集日のみではあるが、拡大区において成熟が遅い傾向があることが示唆された。これらの結果より、崖崩れに伴い拡大したオオアマモ群落では特に繁殖に関わる形質が大きく変化していることが示された。