| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-214 (Poster presentation)
植物において、個体間での性的対立に関する報告例は多くない。日本在来種のカンサイタンポポでは、受粉による頭状花序の早期閉花現象について個体間での性的対立が起きている可能性が示唆されている。 カンサイタンポポでは受粉により頭状花序が数時間で閉花する早期閉花がみられる。受粉から閉花までの時間の最適値は自身の父性を確実にしたい花粉親個体と多くの花粉を得たい種子親個体で異なることが予想され、早期閉花により花粉親–種子親間での性的対立が起きる可能性がある。性的対立が生じるには早期閉花により種子親に不利益が生じ得ることが必要条件であるが、早期閉花がカンサイタンポポの種子親の雌機能に与える影響は未だ明らかではない。そこで、本研究はカンサイタンポポを対象に、早期閉花が雌機能に与える負の影響を結実率の観点から明らかにすることを目的とした。
2021年3月から5月にかけて、兵庫県神戸市の里山に自生する集団で3つの実験を実施した。まず、網掛けにより開花時間を操作し野外での開花時間と結実率の関係を調べた。次に、追加受粉実験により早期閉花後の未受粉雌蕊の稔性を調べた。最後に、野外で実際に早期閉花による結実率の低下が起きているかを知るため、野外での花粉制限の有無を調べた。
調査の結果、開花時間が長いほど結実率が高くなる傾向が見られた。また、未受粉雌蕊が閉花後も稔性を保っていることが分かった。これらより、早期閉花に伴う開花時間の減少は潜在的にカンサイタンポポの結実率を低下させる可能性が示された。これは早期閉花により種子親の雌成功減少が起きることに繋がる。一方、野外では早期閉花による花粉制限(種子生産低下)は確認されなかった。これは調査地での訪花頻度や個体密度が高いことに起因すると思われる。今後はどのような閉花速度、環境要因で早期閉花が雌機能に対して負の影響を及ぼし、個体間の性的対立が生じるのかを検証していく必要がある。