| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-219 (Poster presentation)
乾燥地への適応として,夏の乾燥害を受ける前に早期繁殖を行う植物種の存在が知られている.本研究では,キツリフネの早咲き型と遅咲き型が,乾燥した尾根と湿潤な沢にそれぞれ二極化して局所適応(エコタイプ分化)しているという仮説を立て,尾根と沢にそれぞれ1ヶ所ずつの相互移植実験用プロットを設け,以下の2点について調査した.①尾根と沢を特徴づける環境要因を明らかにするための季節的な環境モニタリング,②移植されたエコタイプのパフォーマンスが移植先で下がるかを明らかにするための,両エコタイプの相互移植実験.なお,生物的要因の影響を排除するため,実験用プロットでは実験植物以外を除去した.
結果として,まず6月~11月まで両プロットでロガーによる無機的環境(気温,空中湿度,土壌水分量)の連続測定を行ったところ,尾根-沢間で土壌水分量が顕著に異なっていた.尾根では土壌水分が乏しく,調査期間を通じて土壌が乾燥していた.
相互移植実験では,沢由来の遅咲き型を尾根に移植すると,生存率,草丈の生長率,葉面積が低下・減少した.このことは,沢から尾根への侵入は,無機的環境の違いにより遅咲き型にとって不利となることを示している(ホームサイトアドバンテージ).これに対して,尾根由来の早咲き型の生存率は,尾根と沢の間で有意差がなく,草丈の生長率についてはむしろ沢での方が高かった.このことは,早咲き型が尾根から沢へ侵入することを阻む要因は,無機的環境要因ではないことを示唆している.
本研究の結果は、沢由来の遅咲き型が尾根に侵入するのは不利益が伴うことを示している.一方で、尾根由来の早咲き型は,沢に侵入しても悪影響を受けていなかった.これに関しては、今後,実験植物以外を除去せず,生物的要因の影響を加味して再評価する必要がある.