| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-221 (Poster presentation)
種子による有性繁殖の他にむかごで無性繁殖を行うヤマノイモはモザイクウイルスに感染する。有性繁殖が種の存続に有利とする仮説の1つである病原体―赤の女王仮説では、寄生者に対する宿主の抵抗手段として有性繁殖による遺伝的多様性の維持が重要と考えられている。したがって、むかごで繁殖する集団ほど集団の遺伝的多様性が減少しウイルス感染しやすくなる可能性がある。一方で、このウイルスは昆虫の食害による新規の経口感染の他に、むかごによる垂直伝播によって分布を拡大する。これにより、ウイルス感染したむかごによる繁殖は感染を拡大させることになる。このように、ヤマノイモでは病原体―赤の女王仮説とウイルス伝搬の仕組みの2点から無性繁殖による遺伝的多様性の低下が個体群の存続を不安定化させる可能性がある。そこで本研究では、各ヤマノイモ集団の遺伝的多様性とウイルス感染率の関係を明らかにすることを目的とした。都内5つの地域で、ヤマノイモ各24個体をランダムに選び葉を採取し、葉の病徴の有無を目視で判定した。採取した葉からRNA抽出を行い、逆転写PCR法を用いてヤマノイモモザイクウイルス(JYMV)とヤマノイモえそモザイクウイルス(ChYNMV)の感染の有無を調べた。さらに、葉からDNA抽出を行い、SSR5座で遺伝解析を行った。ヤマノイモのウイルス感染率は目視では16~75%であり集団間で有意に異なっていたが、逆転写PCR法では41~75%であり有意な差が見られなかった。ChYNMVの感染はなく、感染していたのはすべてJYMVであった。遺伝的多様性は地域間で有意な差はなく、逆転写PCR法におけるウイルス感染率と遺伝多様性は無相関であった。目視ではウイルス感染が確認されなかったが逆転写PCR法で確認された個体があったことからウイルス感染しても無病徴の個体が存在することが明らかになった。集団間の遺伝的多様性に差がなかったことから、今後、遺伝的多様性の大きく異なる集団を探す必要がある。