| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-225 (Poster presentation)
多くの植物種において、種子が吸水後に種子粘液を放出することが知られている。種子粘液は多様な生態的機能を持つことが予想されるが、特に種子散布や種子発芽に対する効果が注目される。本研究では生育環境の異なる10種のアブラナ科植物の種子粘液放出パターンを比較し、種子粘液の放出量と粘着力の関係を調べるとともに、粘液を多く放出する種が特定の生育環境に分布する傾向があるかを検証することを目的とした。
本研究では、都市や農地環境からミチタネツケバナ、タネツケバナ、ナズナ、マメグンバイナズナ、シロイヌナズナ、水辺環境からはオオバタネツケバナ、オランダガラシ、タチスズシロソウ、林縁環境からハクサンハタザオ、ミチバタガラシを対象に種子を得て実験に使用した。種子粘液の放出パターンは、トルイジンブルーOを用いた染色により吸水時間ごとに種子粘液の厚さを求めた。粘着力を求めるために、傾斜台を用いた種子脱落実験を行い、吸水時間や粘液放出量との関係を調べた。さらに、一部の植物種について種子粘液の有無による発芽への影響を評価した。
種子粘液の放出パターンとしては、都市や農地環境から得られた植物種の種子では吸水直後に粘液の放出が起こり、水辺や砂地より採取した種子では吸水から数時間経過してから粘液の放出が起こる傾向がみられた。種子粘液と粘着力の間には有意な相関があることが示唆され、都市環境に分布する種が高い粘着力をもつことが示された。発芽に対する効果については、休眠状態にある種子が多かったために、粘液の効果を評価するまでには至らなかった。ナズナにおいて、粘液をもつ種子の方が僅かに発芽が遅い傾向があったが、統計的に有意な差ではなかった。
本種子粘液の粘着力が農地や都市部などの環境では、ヒト・動物・車への付着を促進している可能性がある。今後、種子粘液の付着機能が野外での種子散布にどの程度貢献するかを検証する研究が必要である。