| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-230  (Poster presentation)

ブナ属を包括する根系配分(呼吸・重量・表面積)スケーリング
Scaling of root fraction in respiration, fresh mass, and surface area, encompassing the genus Fagus.

*黒澤陽子, 森茂太(山形大学)
*Yoko KUROSAWA, Shigeta MORI(Yamagata Univ.)

 樹木個体の成長は、呼吸により維持される炭素獲得と水獲得で制御されており、トレードオフ関係にある根系と地上部への代謝産物やエネルギーの配分機構解明は生態学の中心的課題である。根系と地上部へのエネルギー配分は、光や水の環境だけでなくサイズに応じて変化する。しかし、根を含む個体呼吸を種子~成木まで実測した研究は無く、根系と地上部へのエネルギー配分における系統・環境とサイズによる制御の兼ね合いは未解明である。
 そこで、本研究は様々な系統・環境のブナ属3種の吸水種子~成木の根系と地上部の重量・表面積・呼吸の実測とスケーリング分析により、根系への配分を考慮したブナ属に統一的な成長メカニズムの解明を目的とした。 材料には環境や遺伝子の異なる5産地の被陰~優勢個体を含む日本のブナ(Fagus crenata)吸水種子~成木407個体、アメリカブナ(Fagus grandifolia)実生36個体、ヨーロッパブナ(Fagus sylvatica)実生3個体を用いた。材料に応じたサイズのチャンバーで個体全体の地上部と根系の呼吸を1個体毎に測定し、画像解析装置で根系表面積を測定した。
 この結果、両対数軸上の根系と個体重量の関係は上に凸、地上部と個体重量は下に凸の非線形が選択され、明確な産地・系統間差は生じなかった。この結果は、成長初期に根系成長を優先的に高め、その後、成木になるにつれて根系への配分を抑制して徐々に地上部成長が顕著になることに起因している。
 一般的に、樹木成長は「緩やかな初期成長の後に成長が加速し、徐々に成長が飽和に近づく」シグモイド型曲線で表されるが、この曲線の生成メカニズムは未解明である。しかし、本研究は、芽生え期には根系の急速成長が個体成長を促進し、成木期には地上部に先立ち根系の成長が飽和に近付くことを示唆している。今後は、根系・地上部呼吸の環境・系統間差をより広い個体サイズ幅で分析することで、ブナ属に統一的な成長モデルを解明できる可能性がある。


日本生態学会