| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-232 (Poster presentation)
街路樹はCO2吸収、大気汚染物質の吸着など様々な機能を果たしている。しかし都市における様々な環境ストレスは光合成機能低下をもたらし、街路樹としての機能を損なう恐れがある。
近年、夏の季節風により大量の水蒸気が海域から流れ込み、日本周辺の相対湿度が極めて高くなる現象が発生している。この時、日中の相対湿度は約60%から90%以上に急激に上昇することがある。そのような背景から、街路樹は夏に急激な大気湿度の変化を経験することがあると予想され、今後の街路樹は湿度環境の変化に対応できるかどうかも重要になると考えられる。
イチョウは様々なストレスに対する耐性が高く、日本で最も植栽されている高木の街路樹であるが、大気の高湿度環境に対してどのように光合成が応答するのかに関する研究は少ない。
そこで本研究では、相対湿度60%をコントロールとし、85%の高湿度環境下でイチョウを2週間栽培した後コントロール条件に戻して2週間栽培した(回復条件)。コントロール条件、高湿度条件、回復条件で、イチョウの光合成機能と長期の水利用効率となる炭素安定同位体比とを比較した。
その結果、コントロール条件と比較すると、高湿度条件、回復条件それぞれの光合成速度に減少傾向は見られたが、統計的に有意な差はなかった。短期の水利用効率と炭素安定同位体比についても同様に高湿度条件、回復条件ではコントロール条件と比べて有意な差はなかった。気孔コンダクタンスや最大カルボキシル化速度も同様に有意な変化は見られなかったが、電子伝達速度については、コントロール条件と比較して回復条件で有意に減少した。
以上の結果から、相対湿度85%の高湿度環境下は、イチョウの光合成機能にとって強いストレスではなかったと考えられる。しかし、電子伝達速度のみ回復条件で有意に減少したことから、高湿度環境を経験することで通常の湿度に戻した場合に、Rubiscoの再生能力が落ちる可能性が示唆された。