| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-233 (Poster presentation)
弾性変形の起こりにくさを表す幹(材)のヤング率は、樹形の力学的維持や生活史戦略と関連し、樹種間で異なると考えられる。材密度が高いほど、また、単位乾燥重量あたりの細胞壁の含有率が高いほど、ヤング率が増加すると考えられる。さらに、木材力学の分野では、繊維細胞や道管細胞の細胞壁のセルロースミクロフィブリル傾角(MFA、セルロースミクロフィブリルが細胞の軸方向となす角度)が小さいほど、軸を曲げる方向にかかる応力に対するヤング率が増加することが知られている。しかし、天然林に自生する多様な樹種についてMFAを測定した事例はなく、MFAの種間変異や、MFAとヤング率の関係はよく分かっていない。本研究では、屋久島の暖温帯林に自生する51種の木本種の稚樹に対し、主幹のヤング率、材密度、細胞壁含量、MFAを定量し、各要因の変異や相関を検証した。各樹種から胸高直径1-3cm程度の稚樹130個体(各種1-4個体)の主幹を採取した。ヤング率は三点曲げ試験により計測した。また中性界面活性剤によって細胞壁画分を定量した。MFAは、X線回折装置でβ回転においてセルロースIの直鎖方向結晶面の反射強度を測定して推定した。結果、ヤング率は種間で約11倍の変異が見られ、材密度や細胞壁含量と有意な相関が見られた。一方で、MFAは、唯一の針葉樹のナギでは約30˚と高めであったが、多くの広葉樹では10˚以下の小さな値に偏り、ヤング率と有意な相関はなかった。広葉樹のMFAの分散において、個体内および種内の分散が大きく、広葉樹の稚樹のMFAが環境要因の影響を受けやすいことが示唆された。種平均値の重回帰分析の結果、主幹のヤング率の変異に対して、材密度は17%の説明力を、細胞壁含量は12%の説明力を持った。MFA は有意な説明力をもたなかったが、MFAが大きくなるにつれ、材密度あたりのヤング率の上限が減少する傾向(三角分布)が見られたため、MFAがヤング率の上限を制限していると考えられた。