| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-236  (Poster presentation)

ヒメツリガネゴケの転写因子AP2過剰発現体の過重力応答
Hypergravity response of the transcription factor AP2 overexpressor in the Physcomitrella patens

*前田彩友子(京都工芸繊維大学)
*Ayuko MAEDA(KIT)

植物は、人類が宇宙環境で長期にわたって滞在するのに重要な役割を果たす。植物を宇宙環境で栽培するためには、植物の重力応答の詳細を解明することは必要不可欠である。これまでの研究では、過重力下での栽培により、ヒメツリガネゴケの光合成速度が上昇すること、またこの光合成速度の上昇には、CO2透過性を上昇させる葉緑体サイズの増加、茎葉体の増加が大きく寄与していることが分かっている。また、植物の生長や器官形成に関与する転写因子AP2相同遺伝子群がヒメツリガネゴケの過重力下における発現上昇遺伝子中に高頻度に含まれることが明らかになっている。このことから、転写因子AP2が葉緑体サイズの増加、茎葉体の増加に関与している可能性が示唆された。
本研究では、転写因子AP2を過剰発現させたヒメツリガネゴケを使用し、過重力をかけて栽培した。その後、形態観察、光合成機能の測定を通して、AP2が植物の過重力応答に果たす役割の詳細を探ることを目的とした。
10×g条件と1×g条件で8週間、ヒメツリガネゴケの野生型とAP2過剰発現体を栽培したところ、すべての系統で10×g条件での光合成速度と植物体内CO2コンダクタンスが1×g条件を上回った。また、10×g条件と1×g条件での差をそれぞれの系統で比べた時、過剰発現体より野生型での差が大きくなった。実験当初、転写因子AP2の過剰発現体は過重力栽培により、野生型より葉緑体サイズが大きくなり、CO2透過性が高まることで、光合成速度が野生型と比べて大きく増加すると予想していた。しかし、過剰発現体の光合成速度の上昇は野生型の光合成速度の上昇に満たなかった。その理由として、過剰発現体の葉緑体サイズは野生型より増大したが、同時に細胞壁が厚くなったため、CO2透過性の上昇が抑制されてしまったことが考えられる。
今後は、他の遺伝子解析も組み合せて、ヒメツリガネゴケの重力応答のさらなる解明に繋げたい。


日本生態学会