| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-242 (Poster presentation)
コケモモは、高山環境を中心に分布する氷期遺存種である。日本の高山にはハイマツが優占して群落を形成しており、強風や強光を防ぐことで高山植物が生存しやすい環境を作り出すナースプラント(山地や乾燥地などの過酷な環境下で植物が定着、成長を手助けとなる植物)として機能している。コケモモはその恩恵を受ける高山植物としてハイマツ群落下に生育するが、ナースプラント群落下の化学的・物理的環境は、そのサイズによって大きく異なる。そこで本研究ではマット状の大規模なハイマツ群落下(M区)、パッチ状の小規模なハイマツ群落下(P区)、ハイマツ群落の外(O区)の3つの生育区の間で、生育環境とコケモモのシュート成長および表現形質の関係性を比較した。
長野県乗鞍岳において、シュートの当年成長量および群落高を計測した。同地点から1年葉を採取し、LMA( Leaf Mass per Area )の測定および炭素と窒素の安定同位体分析を行った。また、風量、温度、光量をM区とO区、P区とO区でそれぞれ同時に計測し、O区に対するM区、P区での計測値を比較した。
シュートの当年成長量と群落高は、ハイマツ群落下において高い値を示した。LMAはO区において最も高く、P区、M区と低下したことから、ハイマツ群落による被陰の影響が考えられた。安定同位体分析の結果から、ハイマツ群落下であるP区、M区では、窒素と水分に恵まれていることが示された。風量と温度の結果から、サイズの大きなハイマツ群落下では風衝効果と保温効果が高くなると考えられた。これらの結果から、ハイマツ群落内の良好な栄養と水分条件、風衝効果と保温効果によってコケモモの成長が促進されるものの、被陰の影響が上回るとその成長が抑制に転じる傾向が認められた。ナースプラントであるハイマツ群落のサイズの違いによって山岳風衝地内の化学的・物理的環境の異質化が生じ、高山植物の空間的な棲み分けに寄与している可能性が示唆された。