| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-243 (Poster presentation)
植物は限られた資源を繁殖や成長に配分するが、その資源分配戦略は生育環境に影響を受けると考えられる。種子植物では利用資源の制限下で繁殖への資源分配は減少することが示唆されている。一方シダ植物ではその繁殖様式の違いから資源分配が異なる可能性があるが、シダ植物での研究例は非常にまれである。そこで本研究では特に水と養分の制限が異なる2種のシダ植物イワヒメワラビとイノモトソウについて資源分配を比較することを目的とした。
イノモトソウは京都市市街地から6個体、イワヒメワラビは左京区大文字山の山中に群落プロットを6ヶ所作成してサンプルとして用いた。各個体及びプロットの胞子葉と栄養葉の数を記録し、それぞれ5枚採取してサンプルとして用いた。各サンプルは葉への投資量の指標として乾燥重量を、水と土壌栄養資源の指標として炭素安定同位体比と窒素濃度を測定した。また、胞子嚢生産量を推定するため胞子葉の小片を採取し、顕微鏡撮影画像を用いてソーラス面積と胞子嚢数を測定し、両者の関係を調べた。採取した胞子葉はスキャン画像を撮り、胞子葉1枚当たりのソーラス面積を測定して胞子嚢数を推定した。胞子葉と栄養葉の数比と乾燥重量、推定した胞子嚢数から胞子嚢あたりの葉への投資量を計算し比較した。
窒素濃度と炭素同位体比の結果からは有意な差が確認され、イノモトソウがより強い資源窒素及び水資源制約下で生育していることが示唆された。葉の乾燥重量は2種ともに胞子葉が有意に大きく、栄養葉より大きなコストを必要とした。これは胞子の拡散性を向上するように胞子葉が大型(イワヒメワラビ)あるいは背の高い形態(イノモトソウ)をしていることが推察された。また、イノモトソウに比べてイワヒメワラビは胞子嚢に対して葉への投資割合が高かった。これは、クローンによって個体を増やしやすいイワヒメワラビの繁殖特性を反映している可能性が考えられた。