| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-246  (Poster presentation)

ヤチダモの生活史初期におけるアーバスキュラー菌根共生の時間的変化
Progress of arbuscular mycorrhizal fungal colonization during the early stage of life cycle in Fraxinus mandschurica

*菊地奈菜美, 佐久間夕芽, 富松裕(山形大学)
*Nanami KIKUCHI, Yume SAKUMA, Hiroshi TOMIMATSU(Yamagata Univ.)

維管束植物の約7割がアーバスキュラー菌根菌(AM菌)と共生している。植物は、AM菌に光合成産物を提供し、AM菌からリンなどの栄養塩を得ている。そのため、植物とAM菌の共生関係は生態系の一次生産において重要な役割を果たしているが、自然環境下におけるAM共生の実態については未解明な点が多い。先行研究では、実生が速やかにAM菌と共生を始め、その後、急速に感染率(共生の度合い)が上昇して頭打ちになることから、生活史の初期過程におけるAM共生の重要性が主張されてきた。しかし、先行研究は、成長の速い作物や草原生植物を対象としている。森林では、実生の定着において栄養塩よりも光が強く制限されるため、AM菌に多くの光合成産物を提供してまで密接な共生関係を発達させることは利益にならない可能性がある。もし、AM菌との共生関係が栄養塩の要求量に応じて制御されるとすれば、森林生植物では共生関係がゆっくりと進行し、成長の速い個体ほど感染率が高くなると期待される。本研究では、夏緑樹林に生育するヤチダモを対象として、生活史の初期過程におけるAM共生の時間動態を明らかにすることを目的とした。当年生実生は、出現してから約1ヵ月後までにAM菌と共生を始め、約4か月が経過した後でも感染率は30 % 程度であった。感染率が成木(54.8 %)と同程度に達するまでには平均約2年を要しており、先行研究と比べて、感染率の上昇は緩やかに進行していた。また、当年生実生は個体間で成長速度が異なっていたが、乾燥重量が大きい個体ほど感染率が有意に高かった。これらの結果から、草原生植物と森林生植物では、生活史初期においてAM菌との共生関係を発達させる時間スケールが異なっており、共生関係は生育環境による成長速度の変化に応じて制御されていることが示唆された。


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