| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-248 (Poster presentation)
樹木は光合成によって獲得した炭素から糖を生成して代謝や成長に使用する一方で、糖やデンプンのような非構造性炭水化物(NSC)として貯蔵も行う。通常、糖はシンク能の大きさに従って分配され、貯蔵されたNSCは環境ストレス下において利用され、生命活動の維持に用いられる重要な要素とされている。しかし、器官によってNSCの配分は異なっており、炭素制限下においてNSCはどのように移動するか、また、器官ごとの生存に必要最低限のNSCは異なるのかについてはよく知られていない。そこで、樹木実生の葉の半分を被陰して、通常とは異なるシンク能の勾配をつくりだすことで炭素制限下においてNSCが器官をまたいだ移動・分布を示すようになるのかを実生を葉・茎・主根・細根に分けて、呼吸速度や成長率とともに調べた。加えて、個体全体を被陰して完全に炭素獲得を阻害することで生存に必要最低限のNSCを調べた。
その結果、葉の半分を被陰した実験では、被陰ストレスを与えた葉でストレスを与えた直後にデンプンの低下と糖の増加が見られ、そこからデンプンは1%未満になった一方、糖は一定の濃度に保たれた。また、成長率は実験を通してほとんどなく、呼吸速度はすべての器官で低下した。これより、実生は一部がストレスを受けるとNSC消費を抑え、ストレスを受けている部分に向かってNSCは器官をまたいで移動することが考えられる。個体全体を被陰した実験では、葉で呼吸速度が0になり、枯れが起こった。そのとき、デンプンも糖も1%未満となり、大きく減少していた。他の器官で呼吸速度は0にならなかったが、茎と細根のNSCは枯れた葉と同程度まで低下していた。以上の結果より、NSCが1%以上なら生存可能だが、炭素獲得の制限が長期化するとデンプンから枯渇し、糖まで枯渇した器官から枯れが始まることが考えられる。葉から枯れが始まり、茎と細根でもNSCの枯渇が見られたため、被陰による枯死は地上部から起こると予想される。