| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-252  (Poster presentation)

アーバスキュラー菌根菌に関連した同位体分別を考慮したヒノキの窒素源の推定
Estimation of nitrogen sources in Japanese cypress considering isotope effects associated with arbuscular mycorrhizal fungi

*関原菜月, 松本昌也, 山川大輔, 松田陽介, 松尾奈緒子(三重大学)
*Natsuki SEKIHARA, Masaya MATSUMOTO, Daisuke YAMAKAWA, Yosuke MATSUDA, Naoko MATSUO(Mie Univ.)

近年、窒素沈着量の増加が日本の森林面積の30%を占めるヒノキやスギの人工林の窒素循環に影響を及ぼしているとの報告があり、それらの今後の変化を予測するためヒノキやスギの窒素利用を明らかにする必要がある。樹木の窒素吸収源は葉や根などの窒素安定同位体比を土壌中のアンモニア態窒素や硝酸態窒素のそれと照合することで推定されてきたが、両者の関係は根に共生する菌根菌の影響を受けることが指摘されている。そこで本研究では、滋賀県大津市の人工林に生育するヒノキの細根を感染源としてアーバスキュラー菌根菌(以下、AM菌)を感染させて栽培したトウモロコシ苗と感染させずに栽培したトウモロコシ苗の窒素安定同位体比の差から、AM菌に関連した同位体効果を推定した。次に、上記調査地で採取したヒノキの葉、細根、イオン交換樹脂を用いて抽出した土壌中のアンモニア態窒素と硝酸態窒素の窒素安定同位体比に同位体混合モデル(SIARモデル)を適用し、AM菌に関連した同位体効果として本研究による推定値(+0.17‰)を用いる場合と同位体効果を考慮しない場合(0.0‰)について、ヒノキの葉と細根の窒素源としてのアンモニア態窒素と硝酸態窒素の寄与率を推定した。その結果、同位体効果がどちらの値でも硝酸態窒素の寄与率は、葉では80%以上、細根では50%程度推定されたことから、このヒノキ林においてはAM菌に関連した同位体効果を考慮しなくてよいと考えられた。また、本調査地では土壌から植物への硝酸態窒素供給量がアンモニア態窒素供給量よりも多かったこと、樹体の窒素配分の大部分を占める葉における硝酸態窒素の寄与率が80%以上であったことから、ヒノキ個体としての主要な窒素源は硝酸態窒素であると考えられた。一方、アンモニア態窒素の寄与率が細根(約50%)において葉(約20%)よりも高かったことは、高濃度で有害となるアンモニア態窒素は根で同化され、根の成長に優先的に利用されていた可能性を示唆している。


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