| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-264  (Poster presentation)

景観の違いが哺乳類の農地利用に与える影響
Effects of landscape on mammal use of agricultural land

*相川詠紀, 斎藤昌幸(山形大学)
*Eiki AIKAWA, Masayuki U. SAITO(Yamagata Univ.)

 農業活動に伴う農地の開発や拡大は、多くの生物に対して負の影響を与える。哺乳類は農地を利用することが知られているが、周辺景観が哺乳類の農地利用に与える影響の知見は限られており、アジアではほとんど調べられていない。また、農業活動は哺乳類の行動様式にも影響を与える可能性があり、その影響は生態系機能にカスケードするとされるため、哺乳類の行動様式への影響を調べることは重要である。本研究では、農業の集約化に伴う景観の違いが中大型哺乳類の農地利用に与える影響を、種多様性、農地への出現、逃避反応から明らかにすることを目的とした。
 山形県庄内地方において、春(2021年5月から6月)と秋(2021年10月から11月)に農地を対象としたスポットライトカウント調査を行なった。調査では農業活動の度合いに応じて周辺景観の異なる3地域(平野、中間、山間)で計5つのルートを設定した。それぞれの地域に出現した中大型哺乳類の種多様性を希薄化および外挿曲線を用いて解析した。また、多く観察されたタヌキ、キツネ、ネコについては、農地出現および逃避反応の有無と景観要因(周辺農地割合と森林および住宅地からの距離)との関係をいずれも一般化加法モデル(GAM)で解析した。
 スポットライトカウントの結果、春は271個体、秋は199個体の中大型哺乳類を発見した。希薄化および外挿曲線から、春秋ともに平野地域で多様度が低い傾向にあり、農地が集約化された景観は中大型哺乳類の群集構造に負の影響を与えることが示唆された。GAMの結果、周辺景観が中型哺乳類の農地出現および逃避反応に与える影響は種ごとに異なっていた。いずれもタヌキのみが周辺農地割合から負の影響を受けていることが示され、農業活動に対する高い感受性が示唆された。本研究で得られた中大型哺乳類への農業景観の影響は、農業地域における生態系の機能や管理を考える上で重要だと考えられる。


日本生態学会