| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-266  (Poster presentation)

積雪環境におけるアカギツネとニホンテンの食性:農村景観と森林景観の比較
Food habits of red foxes and Japanese martens in snowy environments: a comparison between rural and forest landscapes

*中根あすみ(山形大学), 榎本孝晃(岩手大学大学院, 山形大学), 斎藤昌幸(山形大学)
*Asumi NAKANE(Yamagata Univ.), Takaaki ENOMOTO(Iwate Univ., Yamagata Univ.), Masayuki U SAITO(Yamagata Univ.)

 農業活動から生じる人為的な餌資源は、中型食肉目にとって餌の少ない冬期にも利用できる餌資源である。特に栽培果実は栄養価が高く、豊富に、しかも長く存在するため、間接的な餌付けになる恐れがある。積雪は動物の採食行動を制限するため、多雪地では栽培果実の利用も制限されると考えられる。しかし、実際には、テンが雪に埋まった果実を利用する事例などから、積雪環境でも栽培果実は餌資源として機能している可能性がある。本研究では、積雪期におけるニホンテンとアカギツネの食性を農村景観と森林景観で比較し、栽培果実の利用実態を評価した。
 調査は山形県鶴岡市の西荒屋(農村景観)および上名川演習林(森林景観)で行った。糞サンプルは2020年12月から2021年4月に採取した。糞分析によって、各餌項目の出現頻度、相対出現頻度、乾燥重量比を評価し、景観間および種間で食性を比較した。種子については可能な限り種まで同定を行った。さらに、景観間および種間の食性の類似度と、各景観における両種の食性幅も算出した。森林景観においては、カキの利用の有無と集落・農地からの距離の関係を解析した。
 農村景観では両種ともに哺乳類、鳥類、栽培果実(カキやリンゴなど)を多く利用し、森林景観ではテンは哺乳類、昆虫類、キツネは哺乳類、栽培果実(カキなど)を多く利用していた。農村景観では両種とも食性幅が広く、種間の類似度が高かった。カキやリンゴなどの栽培果実は積雪環境でも主要な餌となっており、利用可能な資源の幅を広げ、食性の重複をもたらしていることが示唆された。また、森林景観でのカキの利用には集落・農地からの距離は関係しておらず、特にキツネは数km先のカキを採食したことが示唆された。栽培果実は間接的な餌付けになっている可能性があり、それは景観スケールに及びうることから、多雪地であっても冬期の農作物を管理することは重要だと考えられる。


日本生態学会