| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-269 (Poster presentation)
丘陵地では、土壌環境の違いや表層撹乱頻度の違いによって斜面の上下で植生分化が見られる.より小スケールの微地形に視点を移すと、林内の谷環境において周辺と異なる林床植生が見られる可能性がある.また、多雪ブナ林の林床植生には積雪による撹乱の影響が考えられる.しかし、環境要因や地表撹乱が種の出現に影響するメカニズムの解明には至っておらず、個体数パターンや機能特性から種の応答性を明らかにする必要がある.本研究では林床出現種の応答性に着目し、多雪ブナ林内の微地形を起因とする環境、撹乱要因と林床の植生変化メカニズムを明らかにすることとする.
山形大学上名川演習林のブナ林内で谷を横断する40mのベルトトランセクトを5本設置し、ベルト上に連続した2m×2mの方形区を設けた.各方形区で個体数を種単位で記録、環境変数は土壌含水率、土壌深度等6項目を測定、地形変数は測量により傾斜角、相対比高を算出した。GAMを用いて各環境要因と個体数の対応を解析した。また、定点での谷斜面撮影による地表撹乱発生の確認と、自作の装置による発生箇所の特定を行った.さらに野外採集した出現種5種の根形質について、斜面内での種間差、傾斜角と土壌深度に対する種内変化の有無を解析した.
平坦な尾根は木本優占、急峻な谷では草本優占と異なる林床植生が見られた.多くの種は土壌含水率と土壌深度に対して有意な個体数パターンを示した.急傾斜では積雪の沈降圧が斜面雪圧となるため地表撹乱が発生し、斜面土壌は浅く保たれていた.さらに、積雪時期に地上部を残す木本種は、地上部の引張り抵抗の弱い浅い根分布では定着を制限され、地上部を枯死させる草本種は浅い土壌への定着を可能とする種が谷斜面に出現した.そのため谷環境において、土壌含水率は好適な生育条件として影響するものの、積雪による撹乱や土壌深度が定着制限として林床植生を明瞭に変化させるというプロセスが明らかになった.