| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-276  (Poster presentation)

全国の遊水地の生態系サービスの定量評価
Quantification of ecosystem services from detention basins in Japan

*柏本ゆかり, 橋本禅(東京大学大学院)
*Yukari KASHIMOTO, Shizuka HASHIMOTO(University of Tokyo)

遊水地は、洪水を一時的に貯留し下流域での浸水被害を防止・軽減する治水施設であり、同時に、自然再生地、公園などとしてさまざまな生態系サービスをもたらすことも期待されている。遊水地事業は、国土交通省か地方自治体により実施される。また、事業用地は、用地買収方式か、地権者による現況の土地利用を維持する地役権設定方法により取得される。事業主体や用地確保方式の違いは、遊水地面積や遊水地内外の土地利用を介して遊水地がもたらす生態系サービスに差異を生むと想定される。先行研究では、主に調整サービスや文化的サービスに着目し、現地調査やアンケート調査による実態把握が試みられてきたが、事業主体や用地確保方式と生態系サービスの関係は十分に検討されていない。そこで本研究では、遊水地がもたらす生態系サービスの供給可能量と、事業主体・用地確保方式の関係を明らかにすることを目的とした。

 国内158件の遊水地を対象に、農業生産、洪水調整、面源負荷、ハビタット、レクリエーションの供給可能量を算出し、事業主体・用地確保方式ごとの差の有無を検証した。また、生態系サービスの構成要素である、遊水地面積や遊水地内外の土地利用などについても、事業主体・用地確保方式ごとの差の有無を検証した。

 その結果、洪水調整は事業主体ごと、農業生産は用地確保方式ごと、面源負荷は事業主体・用地確保方式ごとに供給可能量が異なることが示された。これらの生態系サービスは、遊水地面積と遊水地内の土地利用構造の違いが反映された結果だと考えられた。一方で、ハビタット・レクリエーションは、事業主体・用地確保方式ごとの有意差は見られなかった。これらの生態系サービスは、複数要素を考慮したことにより生態系サービスの供給可能量としては差が生じなかったと考えられた。以上より、遊水地の生態系サービスの有効活用に向けた検討は、遊水地タイプごとに区別する必要があると考えられた。


日本生態学会