| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-278  (Poster presentation)

ヨーロッパにおけるドイツトウヒ枯死木の腐朽型と菌類群集
Decay types and fungal communities of Norway spruce dead wood in Europe

*河崎有希(東北大学), 松岡俊将(京都大学), 佐藤博俊(京都大学), 深澤遊(東北大学)
*Yuki KAWASAKI(Tohoku Univ.), Shunsuke MATSUOKA(Kyoto Univ.), Hirotoshi SATO(Kyoto Univ.), Yu FUKASAWA(Tohoku Univ.)

枯死木は森林に存在するバイオマスとして大きな割合を占めるため,その分解は生態系の炭素循環に影響する.枯死木分解の主役である菌類は菌種により枯死木を構成する難分解性の有機物であるリグニンの分解力が大きく異なるため,菌類群集の違いは枯死木のリグニン含有率に影響する.リグニンが分解された材は白色腐朽型,リグニンが分解されずに残存した材は褐色腐朽型と呼ばれる.このような腐朽型の違いは,森林の炭素貯留量および生物多様性に影響すると考えられるため,枯死木の菌類群集と腐朽型が気候に応じてどう変化するかを理解することは,気候変動が枯死木の分解に与える影響を予測する上で重要である.しかし,気候変動の影響を受けやすいと言われる高緯度の北方林において,気候の違いと枯死木の菌類群集・分解機能の関係はよくわかっていない.
本研究では,ヨーロッパの北方林に広く優占するドイツトウヒの枯死木を対象に,緯度勾配に沿った6ヶ所の森林から採取したサンプルを用い,気候・環境要因が菌類群集構造およびリグニン含有率に及ぼす影響を解析した.菌類群集は,枯死木サンプルから抽出した菌類rDNAのITS1領域におけるメタバーコーディングにより評価した.その結果,リグニン含有率に対して,年平均気温が正の影響,年降水量が負の影響を与えていた.また,菌類の群集構造も年平均気温および年降水量から有意な影響を受けていた.高頻度で検出された菌種のうち,リグニンを分解しないツガサルノコシカケの出現頻度は年平均気温と正の関係があった一方で,リグニンを分解するコフキサルノコシカケの出現頻度は年降水量と正の関係があった.
本研究の結果は,気候変動が枯死木の菌類群集構造を変化させることで材の腐朽型に影響をもたらし,北方林の生態系機能にも影響を及ぼす可能性があることを示唆している.


日本生態学会