| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-279  (Poster presentation)

気候変動が白神山地のブナ林に与える影響:標高別の更新動態の違いに着目して 【B】
Effects of climate change on Japanese beech forest in Shirakami Mountains with a special focus on elevational changes in regeneration patterns 【B】

*猪股龍希, 佐伯いく代(筑波大学)
*Tatsuki INOMATA, Ikuyo SAEKI(University of Tsukuba)

 白神山地は広大なブナ林とそこに生きる動植物の多様性が評価され、1993年に世界自然遺産に登録された。気候の温暖化が進むと白神山地では低標高地からブナの衰退が進み、2100年にはブナの分布適域が世界遺産地域でほぼ0%になると予測されている(松井ほか 2007)。しかし、白神山地においてブナの更新状況を標高別に比較した研究はなく、ブナ林の垂直分布の下限においてブナの実生や幼木が少なくなっているのかについては明らかにされていない。そこで本研究では、異なる標高帯ごとに、ブナの実生及び幼木の生育状況を調べ、低標高域ほどブナの更新木が少ないという仮説を検証することとした。
 白神山地のブナ林の垂直分布の下限付近である標高269mから中央付近の662mにかけて9つの調査地点を定め、各地点に20m×20mの調査区を3つずつ設置した。各調査区では、樹種、胸高直径(DBH)、幼木(DBH<2.0cm)の個体数、およびササの被度を記録した。さらに調査区内に25m²のサブ調査区を設置し、樹高1.3m未満のブナの実生の個体数を記録した。
 若木と林冠木の割合であるJ/C ratio(Shimano 2006)を比較したところ、標高の低い地点ほど、値が低くなる傾向がみられた。また、胸高直径階分布を累積関数:y=ax^bで近似し、係数aとbを比較した結果、標高の低い地点ほどaの値は低下し、bの値は増加した。一般化線形モデルを用いて、ブナの実生および幼木の個体数と、標高との関係を推定したところ、ともに標高から正の影響を受けており、その効果はササの被度や成木の胸高断面積合計よりも大きいと推測された。これらの結果から、白神山地ではブナ林の垂直分布の下限付近においてブナの更新木が少ない傾向にあることが示唆された。このまま温暖化が進むと、標高の低い地域ではブナの更新状況がさらに悪化する可能性がある。気候変動が白神山地のブナ林に与える影響を把握するためには、標高間の更新動態の変化についても注視していくことがのぞまれる。


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