| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-280 (Poster presentation)
伝統的な農業景観は近代化の影響で消滅しつつあるが、過去の土地管理が数十年にわたって植生動態に影響を及ぼすことがある。近年、社会問題となっている管理放棄された里山(落葉広葉樹二次林)はやがて遷移後期林に遷移すると考えらえるが、遷移後期林が減少していることや外来種の侵入による偏向遷移のリスクなどから、放棄里山林が極相植生に遷移するかは不明である。そこで本研究では、保護されている遷移後期の照葉樹林に隣接する管理放棄された二次林の種構成及び林分構造の時空間的変化を調査し、植生遷移を予測することを目的とした。
調査地の太山寺(神戸市西区)では、山林の尾根を境に保護された遷移後期の照葉樹林と約60年前まで利用されていた放棄里山二次林が隣接しており、照葉樹林から二次林へ常緑樹が侵入しはじめている。植生の経年変化を明らかにするため、2005年に照葉樹林に、2003年に照葉樹林から最も離れた二次林の林縁部に調査プロットを設置し、約5年おきに毎木調査を継続した。各プロットの個体数と胸高断面積合計(BA)をもとに、Bray-Curtisの非類似度指数を計算し、非計量多次元尺度法(nMDS)を用いて種構成と林分構造の経年変化を解析した。
二次林の種構成は、約15年の調査期間中に照葉樹林の種構成に近づいていた。これは、コバノミツバツツジをはじめとする耐陰性の低い中・低木種が減少し、ヤブツバキのような照葉樹林構成種が増加したためであることがわかった。一方、二次林ではBAが大きく林冠で優占する落葉広葉樹(コナラやアベマキ)が成長し続けており、照葉樹林の優占種であるコジイのBAはまだ小さいことから、林分構造は照葉樹林に近づいていなかった。
本研究の結果より、近くに種子供給源となる遷移後期林が存在すれば、放棄里山の種構成は通常の遷移系列に沿って変化するが、林分構造に対する過去の管理施業の影響は60年以上続くことが示された。