| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-287 (Poster presentation)
斜面崩壊は山地斜面における主要な自然撹乱体制の一つであり、豪雨や地震によって引き起こされる。近年では、気候変動により斜面崩壊の発生頻度が高まることが推測されている。撹乱後に残された生物学的遺産は生物多様性を高め、撹乱後の植生回復に重要な役割を果たす。斜面崩壊地においても、植生回復に生物学的遺産が関与することが分かっている。一方で、斜面崩壊後の植生回復における生物学的遺産の種類による比較やその働きに関する知見は不足している。そこで本研究では、斜面崩壊地に残された多様な生物学的遺産の物理環境の違いと、それらが植物種の多様性に及ぼす影響を解明することを目的とした。2018年北海道胆振東部地震により発生した厚真川流域の表層崩壊地を対象に、崩壊地に残る主要な生物学的遺産3種類について調査を行った。崩壊前に林床であった部分が崩壊後に斜面上部から流れ、滑落斜面上に残留したものを“林床サイト”、根返りした倒木がマウンド部分も付着した状態で斜面上部から流れ、滑落斜面上に残留したものを“倒木サイト”、崩壊により攪拌された土壌と植物の繁殖子が混じり崖錐に溜まったものを“崩積土サイト”と定義した。また生物学的遺産の影響の少ない場所として生物学的遺産無しサイトを設定し、各調査サイトで植生と環境(土壌含水率、土壌硬度、斜度)を調査した。調査サイト間でα多様性と環境要因の比較を行った結果、α多様性は崩積土サイトが最も高く、倒木サイト、林床サイト、生物学的遺産無しサイトの順で高くなった。またDCAによる種組成の比較の結果、林床サイトと倒木サイト、崩積土サイトと生物学的遺産無しサイトで類似した種組成を示した。前者のグループは撹乱前の林床植生を主体としているため、在来種や遷移後期種を、後者のグループでは斜面崩壊後に新たなニッチが形成されたため、外来種、1-2年生草本を特徴とする種組成となったことが考えられる。