| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-291 (Poster presentation)
魚食性海鳥が糞として供給する窒素(糞由来窒素)は営巣地の陸上生態系および周辺の水域生態系における動植物の種多様性や生物量に影響する。海鳥は海洋環境の変動にともない長年存続していた営巣地を突然放棄し、別の場所に新たに営巣地を創設することがある。糞由来窒素は営巣放棄後も数年間土壌に残存することが知られているが、これらの窒素が周辺の沿岸海洋生態系に及ぼす影響はわかっていない。本研究では、窒素安定同位体比(δ15N)分析を用いて糞由来窒素を追跡し、営巣地放棄や創設にともない糞由来窒素が営巣地周辺沿岸域に生息する海藻類や貝類に及ぼす影響の長期変化を明らかにした。調査は北海道利尻島の2箇所のウミネコLarus crassirostris営巣地(大磯、金崎)で行った。大磯は2000年から営巣地があったが2012年に放棄された。金崎は2016年に営巣地が創設され、2020年に放棄された。これら2箇所の営巣地直下の沿岸域で15種の海藻と2種の貝類を採取し、5~10年間にわたりδ15Nと全窒素含量を測定した。大磯の海藻のδ15Nは営巣放棄から3年目まで、貝類の1種であるタマキビLittorina breviculaのδ15Nは6年目まで、営巣放棄前と同程度に高い値を維持した。金崎の海藻とタマキビのδ15Nは、営巣地創設から放棄までの4年間で徐々に上昇し、放棄から2年後も放棄前と同程度の値を維持した。営巣地直下の沿岸海洋生態系における糞由来窒素の影響は、営巣放棄から数年間継続することが明らかとなった。また糞由来窒素の影響は営巣地創設直後ではなく数年後に最大化することが示唆された。海鳥営巣地の移動にともなう沿岸海洋生態系における海鳥糞由来窒素の動態をより正確に評価するには、営巣地の創設や放棄から数年先まで含めた長期的な研究が必要である。