| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-294 (Poster presentation)
樹木は、細根から易分解性の有機態炭素を含む根滲出物を分泌している。根滲出物は、微生物活性やリターの分解速度を高めるため、地下部炭素動態に大きな影響を及ぼすことが知られている。根滲出物の基質は光合成産物であるため、季節性のある地域では根滲出物速度も季節変化する可能性がある。これまで、地中海や亜熱帯の森林における根滲出物速度の季節性が調べられてきた。しかし、季節変化の大きい温帯域での研究はない。また、根滲出物速度は形態などの根の形質から推定できる可能性があるが、根滲出物と根形態の季節変化を同時に測定し、その関係性を検証した例はない。
そこで本研究は、暖温帯二次林に生育する2樹種における根滲出物の1.季節変化、2.根の形態との関係性を明らかにすることを目的とした。農工大FM多摩丘陵においてコナラとスギの細根を掘り出し、Akatsuki & Makita (2020)の手法を用いて根滲出物速度を測定した。細根を直径階級ごとにガラス濾紙で挟んで培養し、濾紙に滲出物を吸着し、乾燥させた濾紙中の炭素濃度をNCアナライザーで調べた。2樹種×10根系×3直径階級(≤0.5 mm (小)、0.5–1 mm (中)、1–2 mm (大))×4季節(2021/7,8,9,12)の計240サンプルを採取し、その根滲出物速度と根形態特性(比根長:SRLなど)を算出した。
小区分の根系では、根滲出物速度は樹種に関わらず夏季(7,8月)から秋季(9月末)、冬季(12月)にかけて低下した。中・太区分の根系では、スギの根滲出物速度は秋季・冬季にかけて根滲出物速度が低下した一方、コナラでは季節間で変化が見られなかった。このような秋季や冬季における根滲出物速度の低下は、気温低下に伴う樹木の活性低下によるものだと考えられる。また、根滲出物速度とSRLとの間には正の相関が見られた。これは、細い根系ほど生理活性が高いためだと考えられる。