| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-300 (Poster presentation)
近年、農業分野からのアンモニア排出量の増大や化石燃料の燃焼に伴うNOxの放出などの影響により、環境中の無機態窒素の排出量が増加している。特に都市近郊林は人間活動と近くに存在するため、高濃度の窒素降下物に晒されている。また、都市近郊林は人による様々な管理手法の違いがリター層や土壌中の窒素保持量に影響をもたらす可能性も示唆されるが、わかっていないことが多い。本研究では、植生管理手法の異なる3つの都市近郊林を対象として、リター層の性質と土壌の窒素保持量への森林管理の影響を明らかにすることを目的とした。
本研究では、日本女子大学西生田キャンパス内の3種類の森林管理が行われている森林を調査地とした。20年以上、管理が行われておらず陰樹のアラカシが優占する森林(以下、アラカシ林)、定期的な刈取りが行われ15-20年の若いコナラが優占する森林(コナラ若齢林)、定期的な刈取りが行われ20年以上が経過しているコナラ成木が優占する森林(コナラ成木林)である。これらの森林は隣接した場所に存在しているため、森林管理手法以外の条件は類似している。これらの森林において、土壌に無機態窒素を添加した際に、どの程度の窒素がリター層を透過して有機土壌層に沈着するのかを調べた。
リター層はアラカシ林>コナラ成木林>コナラ若齢林の順に厚かったが、リター層の窒素保持能力はアラカシ林で最低であり、多くの無機態窒素が下層の有機土壌層へと透過していた。リター層の中身を調べたところ、アラカシ林のリター層は大半がアラカシの落葉であった。アラカシの葉はコナラとは異なり、クチクラ層が発達しているため、水溶性の無機態窒素の多くを吸着できず、下層へ透過したと考えられた。一方、コナラ若齢林では窒素の透過量が最小であった。コナラ若齢林は光が林床に届きやすいため、草本が繁茂していることから、草本の根による吸収量も窒素の透過を抑制する要因であると推察された。