| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-301 (Poster presentation)
ブナの生育域が地球温暖化により徐々に変化し、2090年の分布適域面積は現在の1/10まで減少すると予測されている。関東北部のブナ林において暖かさ指数が冷温帯の下限である85℃月を超える年が増えていることを踏まえ、気温の上昇がブナ林の炭素固定機能に与える影響を調べるために、ブナ林の生育や炭素蓄積について定量的に明らかにする必要がある。本研究では、物質循環のパラメータとして地上部現存量、成長量、落葉の発生量、A₀層における落葉の蓄積量と分解量に着目し、太平洋側(日本大学水上演習林: 群馬県みなかみ町)と日本海側(苗場国有林, 新潟県南魚沼郡湯沢町)や日本海側の標高の異なるサイト(苗場国有林内の標高550m, 900m, 1500m)で比較し、違いを明らかにすることを目的とした。毎木調査と相対成長式により地上部現存量を、地上部現存量を樹齢で除して平均成長量を求めた。リタートラップ法による落葉の供給量調査、サンプリング法によるA₀層の落葉の蓄積量調査、バランス法やリターバッグ法による落葉の分解速度調査を行い、サイト毎に比較した。水上と苗場の同標高では各パラメータに差はなかったが、地上部現存量や分解速度は標高によって異なった。標高が低くなると地上部現存量が大きくなった。また、落葉の分解速度が速くなった一方で、供給量や蓄積量に差がみられなかった。これらの結果から、落葉を通じた物質循環においては、場所や標高の影響が小さいことが明らかになった。一方で、標高によって地上部現存量が増加したことは非同化器官の増加を示していることから、非同化器官を通じた物質循環が標高によって異なることが予想された。以上より、同化器官だけでなく、非同化器官の物質循環への寄与についても調べる必要があると考えられた。