| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-302 (Poster presentation)
森林生態系の炭素動態は、台風や間伐などの攪乱により大きく変動する。倒木などによる森林構造の変化は、植物の生産量に直接影響を与えるだけでなく、土壌環境の変化を介して微生物による有機物分解にも間接的に影響を与える。攪乱に対する応答性は、森林タイプ(主に優占種の違い)によって異なる可能性が示唆されている。しかし、攪乱が生態系炭素動態に及ぼす影響について異なる森林タイプ間で比較した例は少なく、未解明な点が多い。そこで本研究では、攪乱が森林炭素動態に与える影響及びそれらの優占種による違いを明らかにすることを目的とし、優占種が異なる3林分において攪乱前後の炭素動態の変化を調査、比較した。
調査地は2018年から2019年にかけて、台風及び間伐による攪乱を受けた同一地域に存在する冷温帯コナラ林、カラマツ林、アカマツ林である。2012年から2021年の各年の地上部純一次生産量(NPP、植物生産の指標)と土壌呼吸(SR、有機物分解の指標)を算出し攪乱前後で比較した。
カラマツ林とアカマツ林では攪乱によって生存木が5~6割程度減少し、樹木NPPは減少した。一方、林冠が開いて光が林床まで届くようになり下層植生の生産量(一年生草本の現存量)は増加した。これらの和で求められる地上部NPPは両林分とも攪乱後に減少傾向であった。ただし同程度の攪乱を受けた両林分であっても、攪乱による樹木成長量の低下や下層植生の増加はカラマツ林でより顕著であった。これは落葉樹であるカラマツ林では、落葉期に光合成量が低下することや、林床に届く光量が増加するためだと考えられる。また両林分では攪乱後にSRが有意に増加した。根バイオマスの減少により根呼吸が減ったと考えられる一方、樹木の枯死遺体による有機物供給が増え、微生物呼吸が著しく増加したためだと推察される。以上より、攪乱が森林炭素動態に及ぼす影響の程度は優占種によって異なり、落葉針葉樹であるカラマツ林で顕著であった。