| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-304  (Poster presentation)

福島の河川生態系における食物網を介した放射性セシウムの移行
Transfer of radiocesium through food webs in river ecosystems in Fukushima

*角間海七渡(京都大学), 村上正志(千葉大学), 二瓶直登(福島大学), 和田敏裕(福島大学), 辰野宇大(福島大学), 大手信人(京都大学)
*Minato KAKUMA(Kyoto Univ.), Masashi MURAKAMI(Chiba Univ.), Naoto NIHEI(Fukushima Univ.), Toshihiro WADA(Fukushima Univ.), Takahiro TATSUNO(Fukushima Univ.), Nobuhito OHTE(Kyoto Univ.)

2011年3月の事故により,福島第一原子力発電所(FDNPP)から環境中に大量の放射性核種が放出された.特に放射性セシウム137Csは物理学的半減期が約30年あり,生態系において長期的に循環することが懸念されている.  
 魚類は水産資源として重要な水生生物である.淡水魚類は海水魚類よりも高濃度の137Csを蓄積するため,その汚染が問題となっている.特に帰還困難区域内の河川に生息する魚類は県によるモニタリングの対象となっておらず,体内137Cs濃度特性に関する知見が不足している.
 本研究では,生息場所による餌資源の違いを含む様々な生態学的要因が淡水魚類の体内137Cs濃度特性に与える影響を検証することを目的とした.
 事故から9.5年後に,FDNPP周辺を流れる3河川のそれぞれで上流から下流にかけての3サイト(森林内,中間地点,生活圏内;帰還困難区域内のサイトを含む)にて計10種の魚類を採取し,体サイズを測定後,体内137Cs濃度を測定した.
環境水と魚体の137Csの濃度比である濃度係数(CF)の値には,草食魚であるアユとその他の雑食・魚食魚の間で有意な差が見られた.この結果により,比較的高い137Cs濃度を持つ餌資源である昆虫類を捕食することが魚類の137Cs濃度を高める要因であると示唆された.さらに雑食・魚食魚には,同じ魚種であっても上流の森林内で採取された個体ほどCF値が高い傾向があった.森林内の渓流では,淡水魚の餌資源において137Cs濃度の高い陸生腐食性昆虫が占める割合が大きく,土壌から食物網を介して河川生態系へと多くの137Csが移行している可能性がある.
 草食性であるアユでは個体の全長,体重が大きいほどCF値が低かったのに対し,魚食性であるヤマメでは肥満度,体重が大きいほどCF値が大きかった.これは魚種ごとの食性や代謝の変化といった要因による体内137Cs濃度への影響を反映していると考えられる.
 各要因に影響される137Cs移行メカニズムを詳細に理解するために,今後も調査を継続していく必要がある.


日本生態学会