| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-309 (Poster presentation)
植物根に共生する菌根菌による菌糸生産は、森林の純一次生産(NPP)の最大21%を占める、森林炭素動態の主要経路の一つである。そのため、これまで様々な地域や森林タイプにおいて菌根菌糸生産が調べられてきた。しかし既存研究は、ECM(外生菌根)性樹種が優占する冷涼な北方林や冷温帯林に偏ってきた。より温暖な暖温帯林では菌根菌糸生産がより高い可能性があるが、研究例は非常に少ない。また、暖温帯林のNPPに占める菌根菌糸生産の割合を報告した例はない。そこで本研究は、暖温帯の様々な樹種を対象に菌根菌糸生産の測定を行った。農工大FM多摩丘陵のコナラ(落葉広葉、ECM)、アラカシ(常緑広葉、ECM)、スギ(常緑針葉、AMアーバスキュラー)樹冠下に、培養コアを4季節で計384個設置した。コア周辺土壌全体を、有機物をほぼ含まない真砂土に置換することで腐生菌糸のコンタミを抑えた。約3か月ごとにコアの設置・回収を行った。コア内の菌糸を抽出して菌糸長を測り、菌糸バイオマスを得た。森林のNPP(木部生産とリターフォールは実測、細根生産は文献値)に対する菌根菌糸生産への配分比を調べた。菌根菌糸生産は、季節と樹種により異なった。コナラとアラカシにおける菌糸生産速度は、夏(4–7月)に著しく高く、冬(10–12月)や春(1–4月)で低かった。これは、菌根菌への炭素供給源となる宿主樹木の光合成活性の季節性を反映していると考えられる。スギも同じような季節性を示したが、夏期の生産増加はそれほど顕著ではなかった。これは、一般に生育盛期の光合成速度は針葉樹より広葉樹の方が速いことを反映していると考えられる。NPPに占める菌根菌糸生産の割合は約17%と推定され、多くの炭素が菌糸生産に配分されている可能性が示唆された。