| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-314  (Poster presentation)

昆虫種における局所的な遺伝的分化の生態学的、遺伝学的な要因
Ecological and genetic drivers of regional genetic differentiation in Insect species

*柴田匡人(千葉大学・院・融), 村上正志(千葉大学・院・理)
*Masato SHIBATA(Grad.Sci. Eng., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad.Sci.,Chiba Univ.)

生物多様性には生態系の多様性、種の多様性、遺伝的多様性の3つの階層が存在し、全ての多様性には集団内の多様性(α)と集団間の多様性(β)が存在する。種の多様性におけるα多様性とβ多様性の関係性については多くの研究があるが、遺伝的多様性についての先行研究では、種の形質、生息環境の影響を、α多様性、β多様性、それぞれ別々に解析した研究がほとんどで、遺伝的なα多様性とβ多様性の関係は不明である。したがって、種の形質と生息環境が、α・β多様性に与える影響を同時に扱う複合的な解析を行うことで、種内の遺伝的多様性の空間構造をより深く理解できると考える。そこで、本研究では、昆虫種の形質や生息環境が遺伝的なα・β多様性に与える影響をメタ解析によって明らかにする。さらに、遺伝的なα・β多様性が生じる過程を空間明示的なシミュレーションによって再現し、メタ解析によって得られた結果と比較することで、結果の妥当性を評価する。まず、昆虫種のFST(β多様性の指標)、HE(α多様性の指標)を報告した論文を用いてデータセットを作成し、FST、HEを目的変数、種の形質、生息環境を説明変数において、モデル選択を行った。その結果、飛翔能力はβ多様性と負の相関があり、α多様性とは正の相関があることが示され、生息する気候区分においてもα多様性、β多様性、双方に影響を与えることが示された。また、体サイズはα多様性にのみ影響を与え、体サイズが小さい種はα多様性が大きいことが示され、反対に、食性はβ多様性にのみ影響を与えることが示された。一方、個体ベースの遺伝子流動シミュレーターを用いて仮想の種のパラメータを設定し、遺伝的多様性の分布が決定する過程を再現した。種の形質は産卵数の大小と分散能力の強弱を組み合わせた4パターンで行った。その結果、メタ解析で得られた結果を概ね再現することができ、個体群サイズと分散力の効果の妥当性を確認した。


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