| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-316 (Poster presentation)
ナナフシ目の卵と植物の種子との見た目の類似については長らく様々な仮説が議論されてきたが,実際は見た目だけでなく分散方法の点からも種子と収斂していると言われている.例えば,その卵が植物の種子と同様に水や鳥,またアリによって運ばれることがある.移動性の低いナナフシにとって,他の生物や自然条件によって卵が運ばれることは重要な分散の機会となる一方で,卵に関わる生き物の多くは捕食者などの天敵であると考えられる.
演者らは,ナナフシの卵に集まる昆虫を明らかにするために,九州大学伊都キャンパスで卵の設置調査を行った.卵は同地で採集したエダナナフシ,トゲナナフシ,ナナフシモドキを飼育して得た.同キャンパス内で7-10月の間にナナフシの卵を10卵ずつ設置し,タイムラプスで撮影した.合計でエダナナフシ23回,トゲナナフシ 21回,エダナナフシ 7 個とナナフシモドキの卵 3 個の混在条件で 2 回の撮影調査を行った.その結果,エダナナフシは81.7%が,トゲナナフシの39%が捕食されるか,持ち去られた.前者はアリによる持ち去りが多く,後者はコオロギ類の捕食が多い傾向が見られた.利用者の構成は季節で異なり,7-8月はアリ,9-10月はコオロギ類が多い傾向があった.
本調査から,ナナフシ卵の主要な天敵はコオロギ類であると考えられた.一方で,アリを引き付ける効果は卵本体より蓋帽で高く(Stanton et al., 2015),エダナナフシの場合アミメアリに運ばれた卵はほぼ捕食されないため,寄生蜂から逃れられる(Toyama et al., 2021)と言われている.蓋帽のあるエダナナフシでよりアリを引き付けたが,蓋帽のないトゲナナフシでもある程度は運ばれていたことから,ナナフシ卵のアリへの適応や天敵回避の効果は卵の構造や分類群によって異なっている可能性がある.