| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-326 (Poster presentation)
琵琶湖淀川水系は,400万年以上の歴史をもつ古代湖・琵琶湖を中心に流域面積が約8240㎢にも及ぶ大水系である.その魚類相は多様な分類群を含み,固有種を中心に進化的起源等に関する研究が行われてきた.一方,広域分布種の分布域形成に関する知見は少ない.本研究では,西日本の広域に分布するにもかかわらず生息環境が比較的限定されるコイ科魚類3種(ズナガニゴイ,ムギツク,イトモロコ)を対象に,琵琶湖淀川水系を中心とした遺伝的集団構造を解明し,種間比較を行うことによって,本水系の魚類相形成過程を推察することを目的とした.本水系を含む西日本各地より収集された各種の試料を用いて,mtDNA部分塩基配列に基づく種内系統・分岐年代の推定,およびMIG-seq法により得られたゲノムワイドなデータに基づく集団構造の分析を行った.その結果,ズナガニゴイは系統間の分化が浅く,コイ科で得られたmtDNAの分子進化速度に基づくと,西日本において100万年前以降に急速に拡散したと推定された.ムギツクとイトモロコは両種ともに地域ごとに細分化された集団構造を示し,琵琶湖の東部流入河川集団(湖東集団)は他の近畿地方の集団と異なる固有のハプロタイプ群を有していた.しかし湖東集団は,ムギツクでは九州集団および山陰集団と,イトモロコでは東海集団と姉妹群を形成する点で異なっていた.また地域集団間の分化開始時期は,ムギツクでは約100万年前であったが,イトモロコでは約200万年前に遡った.SNPデータによる解析からもmtDNAの系統と概ね対応した集団構造が示されたが,各種において系統間の遺伝子浸透が検出され,人為移植由来と考えられる集団も確認された.以上の結果は,種間で異なる時期における分散,二次的接触,湖東地域における独自系統の維持など,本水系における魚類相形成過程の新たな側面を示唆する.