| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-329  (Poster presentation)

寄生者フサフクロムシの性決定機構の解明
Mechanism of sex ratio variation in the rhizocephalan Peltogasterella gracilis

*梶本麻未(奈良女子大学), 柳町隆造(ハワイ大学), 遊佐陽一(奈良女子大学)
*Asami KAJIMOTO(Nara Women's Univ.), Ryuzo YANAGIMACHI(Hawaii Univ.), Yoichi YUSA(Nara Women's Univ.)

寄生性フジツボ類のフクロムシ類ケントロゴン目の種では、成体のメスよりもオスの方が著しく小さいが(矮雄)、卵から幼生の段階では逆にオスの方がメスよりも大きい。また、子の性比が季節的に変動することが知られている種があり、その変動には環境要因が関わっていることが示唆されている。フサフクロムシPeltogasterella gracilisでは、メスは基本的に雌雄どちらかの子を産むが、秋にはオスとメスの両方を産むメスがみられるなど、性比変動に環境要因が関与している可能性がある。他方、フサフクロムシの性比変動には遺伝要因の関与も示唆されており、遺伝変動に関するモデルが提唱されている(Yanagimachi, 1961)。このモデルでは、「オスを産むメス」(2n=30)と「メスを産むメス」(2n=31)が存在し、一本の余剰染色体の有無でどちらのタイプのメスになるかが決まっているとされる。しかしながら、季節的な性比変動と余剰染色体の関連性はわかっていない。そこで本研究では、フサフクロムシの性決定機構の解明 を目指して、野外採集と核型分析をおこなった。宿主となるケアシホンヤドカリPagurus lanuginosusは、2020年8 - 11月の毎月と2021年11月に、小樽市の3地点で採集した。フサフクロムシの寄生がみられたら解剖し、胚の長径を測定した。次に、胚を将来メスになる小胚と将来オスになる大胚に分け、アセトカーミン法を用いて染色し、それぞれの胚の染色体数を確認した。その結果、小胚の染色体数は2n=31、大胚の染色体数は2n=30であった。小胚と大胚の両方をもつメスにおいても、同様の結果が得られた。したがって、従来の説とは異なり、フサフクロムシの1本の余剰染色体は性染色体であることが示唆された。母親は余剰染色体を操作することで、季節ごとに雌雄どちらの子を作るか決めている可能性がある。しかし、未受精卵の染色体数については調べられていないため、今後精査が必要である。


日本生態学会