| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-333 (Poster presentation)
都市近郊林は、生物多様性の減少と生態系サービスの劣化の危機にさらされている。都市近郊林のもつ生態系サービスを豊かに保つためには、バイオマスが大きい木本植物の多様性の特徴を明らかにすることが重要である。しかし、人間活動が都市近郊林に与える影響のメカニズムは複雑であり、研究事例を増やして知見を蓄積していくことが必要である。そこで本研究では、近年、都市化が進むつくば市を対象とし、人為的要因が都市近郊林の木本植物の多様性に与える影響を明らかにすることを目的とした。
つくば市とその周辺の平地林9地点に20m×20mの調査区を計24設置し、木本植物の多様性調査を行った。調査した木本植物は胸高直径2cmを基準として、高木から低木を含む成木層と、若木や実生を含む幼木層とに分類し、階層ごとに種数とシャノンの多様度指数(H’)を求めた。また、生態系サービスに関連する樹木の形質として種子散布型、樹高、葉形、花期、果熟期の5項目を選び、機能的多様性(Rao's Q)の評価を行った。さらにこれらの値と、人為的要因の指標となる森林面積、半径2km以内の土地利用、植生管理の有無、過去の土地利用との関係を、一般化線形モデルを用いて解析した。
調査の結果、1調査区あたり、成木層で11種、幼木層で35種の木本植物を記録した。全体として、成木層よりも幼木層のほうが、人為的要因の影響を強く受けていると推測された。例えば幼木層の種数とH’は、森林面積が増加するほど低下する傾向がみられた。一方、幼木層の機能的多様性は、全ての形質を統合した場合、人為的要因との顕著な関係性はみられなかったが、個々の形質で解析すると、都市化傾度が高くなるにつれて種子散布型の多様性は低下し、樹高の多様性は増加した。以上より、都市近郊林の木本植物が人為的要因から受ける影響は、種レベルの多様性と機能的多様性とで傾向が異なり、かつ成木層よりも幼木層に強く現れやすいと考えられた。