| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-334 (Poster presentation)
止水性水生昆虫類の多くは,水田やため池などを主な生息地としている.しかし近年,水田環境の悪化により水生昆虫類の多様性は低下している.そのため,生物多様性に配慮した農法が全国各地で行われており,様々な農法や環境の変化が水生昆虫類に与える影響について調べられている.水田では栽培する稲の品種や管理状況によって,水田間で田植えの時期やそれに伴う湛水時期などが異なる場合がある.しかし管理時期の異なる水田間の水生昆虫群集にどのような変化があるか不明な点が多い.そこで本研究では,栽培管理時期のずれがコウチュウ目・カメムシ目の水生昆虫類に与える影響を明らかにすることを目的とし,管理時期が異なる複数の水田で水生昆虫類の季節消長を比較した.滋賀県高島市の水田5枚を調査地とし,5月18日に湛水した2枚の水田,6月28日に湛水した1枚の水田,7月28日に湛水した2枚の水田にて,2021年5月18日から9月21日にかけて約10日おきに合計14回の調査を行った.水田内の水生昆虫はタモ網を用いて採集を行った.調査の結果合計36種11666個体の水生昆虫が採集された.個体数が多く採集された種について季節消長を調べた結果,各水田の湛水直後に増加傾向を示した種,各水田で同時期に増加傾向を示した種などが確認された.これらの結果から種ごとに水田を利用する時期や期間が異なり,長期間水田で繁殖する種や特定の時期にのみ繁殖する種がいることが明らかとなった.管理時期のずれにより,繁殖時期に湛水した水田がある,もしくは地域全体の湛水期間が延びることで特定の時期にのみ繁殖する種でも個体数を維持でき,長期間の繁殖が可能な種は個体数を増加できると考えられる.これらのことから栽培管理時期の異なる水田の存在は地域の水生昆虫類の多様性を高めていることが示唆された.