| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-341  (Poster presentation)

日本列島におけるアカギツネ(Vulpes vulpes)の分布形成機構および集団動態史
Formation mechanism of distribution area and population dynamics of the Red Fox (Vulpes vulpes) in the Japanese archipelago

*渡辺拓実, 山崎裕治(富山大学大学院)
*Takumi WATANABE, Yuji YAMAZAKI(Univ. Toyama, Graduate School)

 生物の系統地理構造は、種の進化的背景や過去の地球環境を反映する。アカギツネは、日本列島において数少ない高次広食性捕食者であり、生態ピラミッドの頂点に立つ種として、他の生物の分布や個体数に大きな影響を及ぼしている。したがって、本種の系統地理学的研究は、日本列島における生物相の形成プロセスを考える上で極めて重要である。そこで本研究では、日本列島における本種の分布形成機構および集団動態史を明らかにすることを目的とする。
 試料として、岩手県から宮崎県にかけての広範囲において、本種の筋組織および糞85個体分を収集した。mtDNA cytb遺伝子全長1140 bpおよび調節領域5’末端370 bpの塩基配列を決定し、分子系統解析、分岐年代推定、集団履歴推定等を実施した。
 解析の結果、本州、四国、および九州の本種(以下ホンドギツネ集団)は単系統群であり、北朝鮮・中国の個体と最も近縁であることが明らかになった。ホンドギツネ集団と姉妹群との分岐年代は、約19.3(29.3–11.0)万年前と推定された。さらに、ホンドギツネ集団の遺伝的系統は、東北地方から近畿地方に分布する東日本亜系統と、関東地方から九州地方に分布する西日本亜系統とに内部分岐することが強く支持された。両亜系統間の分岐年代は、約15.3(24.3–8.4)万年前と推定された。また、ホンドギツネ集団の有効集団サイズは、約6万年前までほぼ一定であり、その後現在までに約10倍に増加したことが推定された。
 これらの結果から、ホンドギツネ集団の祖先は、リス氷期において対馬海峡に生じた陸橋を介し、朝鮮半島から一度の起源で移入した後、東西で分布域が分断されていたことが示唆された。また、ヴュルム氷期以降において、ヒグマ等の大型哺乳類のニッチの縮小に伴い、適応力の高い本種が集団サイズおよび分布域を拡大させ、その際に東西の分布域が融合したと考えられる。


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