| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-342  (Poster presentation)

オウトウショウジョウバエにおける都市化ストレスに対するエピ遺伝的応答
Epigenetic response to urban stress in Drosophila suzukii

*竹中夏海(千葉大・理), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Natsumi TAKENAKA(Fac. Sci., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

世界各地で起こっている都市化は、温度の上昇や光害・騒音の増加を通じて、生物の生息環境に急激な変化をもたらしている。都市化に伴って多くの種が個体数を急激に減少させている一方で、都市の環境で存続したり、個体数を増加させたりする種もいる。エピジェネティクスは、DNAの塩基配列の変化を伴わずに環境変化に応じて表現型の変化を生み出すメカニズムである。そのため、都市ストレスに対するエピジェネティックな表現型変化のパターンが各生物種の盛衰を左右している可能性がある。本研究では、オウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii)を用いて、夜間の人工光が表現型や遺伝子発現プロファイルに与える影響を検証することを目的とした。まず、関東内の都市部と郊外部で本種を採集し、1地点あたり複数の単雌系統を作出した。次に、夜間に完全に消灯する条件と夜間に微弱な人工光(約10 Lx)を照射する条件で卵を成虫になるまで飼育し、羽化までの生残率や成虫の体サイズ、日周活動パターンを比較した。その結果、都市と郊外の両集団で夜間照明によって羽化までの生残率が有意に低下し、成虫の体サイズが減少することがわかった。また、いずれの集団においても人工照明処理個体は、一日の活動量が全体的に増加しており、夜間人工光による睡眠時間の低下が示唆された。ただし、都市の集団の個体では、日中の活動量を減らし、活動ピークを日没前後から夜間にシフトさせる傾向が見られた。これらの結果は、夜間照明が本種の発生や活動に非適応的な応答をもたらすことを示唆する一方で、都市個体が夜間の時間帯を活動時間帯として利用していることを示唆している。最後に、先述と同様の処理をした成虫についてトランスクリプトーム解析を行ない、遺伝子発現パターンを処理間あるいは地点間で比較した。一連の結果をもとに、都市ストレスが本種にもたらす表現型と遺伝子発現レベルの影響を考察する。


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