| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-345 (Poster presentation)
淡水魚類は分布・分散が淡水域に制限され,地理的障壁によって分化が起こりやすい.また生態特性や分散能力の違いによって,種間で分布域形成パターンが異なることも予想される.琵琶湖周辺地域には多様な淡水魚類が生息しており,湖と周辺湿地,流入出河川の環境セットは,様々な生態特性をもつ種間の分布域形成の比較に適している.本研究は,分布域形成パターンの多様性とその生態学的機構について明らかにすることを目的に,琵琶湖周辺地域のシマドジョウ属を対象としてmtDNA部分塩基配列とMIG-seq法によるゲノムワイドSNPデータを取得し,遺伝的集団構造の種間比較を行った.この地域にはニシシマドジョウ(河川中流・2倍体),チュウガタスジシマドジョウ(河川下流・2倍体),ビワコガタスジシマドジョウ(遡河回遊・2倍体),オオシマドジョウ(河川中流・同質4倍体),オオガタスジシマドジョウ(河川中下流または遡河回遊・異質4倍体)の5種が分布する.SNPデータによる集団構造解析の結果,ニシは琵琶湖周辺で南東部・北東部・西部の3集団に分かれ,境界にあたる地域で遺伝的混合が見られた.チュウガタでは地域間で遺伝的分化は認められなかった.オオガタとオオについては,mtDNAではそれぞれの種内で地域間分化は認められなかったが,SNPデータでは地域間分化が認められ,オオガタは河川と遡河回遊の集団間で,オオは若狭湾流入河川と琵琶湖・淀川水系間で分化が認められた.集団構造の種間差は,河川中流棲のニシでは湖を介した分散が起こりにくく,一方,遡河回遊型のオオガタでは歴史的に最近,湖を介した分散が生じたことなどを示唆する.またオオガタでは異質倍数化によって多様なニッチの利用が可能になったのかもしれない.今後,MIG-seqデータによる多倍数体の集団解析や倍数性判定について,さらに検討する必要がある.