| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-348  (Poster presentation)

野外観測で観測するハムシの迅速進化と群集動態のフィードバック・ループ
Feedback loops of rapid evolution of leaf beetles and ecological community dynamics observed in the field.

*南雲優哉, 仲野友太, 波多腰純也, 内海俊介(北海道大学)
*Yuya NAGUMO, Yuta NAKANO, Junya HATAKOSHI, Shunsuke UTSUMI(Hokkaido Univ.)

迅速な進化と生態群集の動態が同じ時間スケールで相互に影響を及ぼしあうという認識が広まりつつある。しかし、そのようなフィードバックの実証は人工的に制御された環境での検証に限られている。そのため、自然環境でのフィードバックの検証が重要な課題である。   
本研究では、ヤナギの樹上で生息する昆虫群集とヤナギのスペシャリストであるヤナギルリハムシ(以下、ハムシ)の摂食形質の進化の間のフィードバックに着目する。ハムシは摂食形質についての遺伝変異を有する。それに関連する一塩基多型が特定され、群集から進化へ、進化から群集へ、というそれぞれの作用が先行研究で蓄積されている。これらの知見にもとづき、群集-進化フィードバックのサイクルを野外という非制御環境で検証することが本研究の目的である。また、フィードバックが継続的に生じるメカニズムとして、負の頻度依存性に着目した。
石狩川流域の15のサイトで2018~21年の6~9月にハムシ集団を採取し、摂食形質にかかわる適応SNPマーカーと中立マーカーを用いてジェノタイピングを行った。また、2019,20,21年に昆虫群集調査を行い、同定と個体数の計測を行った。結果として適応SNP頻度は4年間で有意な時間変化がみられハムシの迅速な進化が確認された。また、適応遺伝子と中立遺伝子の集団ごとの遺伝的分化度の比較より適応SNP頻度の時間変化は自然選択による適応進化であることが示された。また進化を駆動する要因として昆虫群集が宿主であるヤナギ形質の変化を介して進化に影響を与えていることが示唆された。さらにSEMを用いて進化と群集の相互作用を調べた。結果として群集構造が同一年における迅速な進化を促進し、進化が翌年と翌々年の群集構造に影響を与えるという進化と群集間のフィードバックが確認された。また、この相互作用のそれぞれについて一年おきにパスの符号が入れ替わるという負の頻度依存的な動態が示された。


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