| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨
ESJ69 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-351  (Poster presentation)

ハンドウイルカ属における母乳中の呈味物質とその受容能力に関する遺伝学研究
Genetics of milk tastants and perception ability in the Tursiops dolphins

*勝島日向子(北海道大学), 柏木伸幸(かごしま水族館), 濵野剛久(かごしま水族館), 小木万布(御蔵島観光協会), 早川卓志(北海道大学)
*Hinako KATSUSHIMA(Hokkaido Univ.), Nobuyuki KASHIWAGI(Kagoshima City Aquar.), Takehisa HAMANO(Kagoshima City Aquar.), Kazunobu KOGI(Mikura Is. Tourism assoc.), Takashi HAYAKAWA(Hokkaido Univ.)

母乳は哺乳類の生育初期において唯一利用可能な採食資源であり,乳児が母乳を識別する能力は生存において必要不可欠だと考えられる。本研究では,進化の過程で味覚・嗅覚を大幅に退化させた鯨類においても,哺乳類として必須の母乳認識には化学感覚が用いられているとの仮説を立てた。鯨類の母乳は、栄養分として脂肪が最も多く含まれている。そこで脂肪味覚(脂肪酸受容能力)に着目した。ハンドウイルカ属(Tursiops spp.)を対象に研究を実施した。まず,化学刺激となりうる母乳中の脂肪酸組成を調べた。2012年3月から2018年10月の期間,いおワールド かごしま水族館(鹿児島県)で飼育されているハンドウイルカ(T. truncatus)から採取された母乳9サンプルを対象に,37種類の脂肪酸の有無をGC-MSによって定性分析した。全てのサンプルから炭素数が14から24の27種類の長鎖脂肪酸が検出された。次に,乳児の舌における脂肪酸受容体遺伝子の発現量を調べた。2020年8月1日に御蔵島にて死亡した野生のミナミハンドウイルカ(T. aduncus)の乳児の舌の3区画(辺縁乳頭,V字溝,コントロール)から17サンプルを採取し,網羅的RNAシークエンシング(RNA-seq)によって脂肪酸受容体遺伝子の発現量を調べた。3区画全てにおいて脂肪酸受容体遺伝子の発現が見られ,特に,乳児期に顕著に観察される構造物である辺縁乳頭においてより多く発現していた。以上の2つの研究から、今回検出された長鎖脂肪酸が,乳児が化学的に検出する刺激物質である可能性が示唆された。今後,飼育個体を対象とした脂肪酸等母乳成分に対する選好性テストや,細胞レベルでの受容体の機能解析をおこなうことで,本仮説の実証をめざす。


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