| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第69回全国大会 (2022年3月、福岡) 講演要旨 ESJ69 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-354 (Poster presentation)
メスの配偶者選択の基準となるオスの装飾形質は、子孫に遺伝する生存力や性的魅力の指標として機能することで進化したと考えられている。グッピーではオスでのみ黒や青、白、オレンジ色などの鮮やかな体色が発達し、メスは特にオレンジ色のスポット模様を重視して配偶者を選択する。本研究ではオレンジスポット形成の遺伝的・分子的基盤の解明を目的とし、オスの皮膚での遺伝子発現解析と、シグナル経路活性のオレンジスポットへの影響の調査を行った。
まずオレンジスポット形成時にはたらく遺伝子を調査するため、RNA-seqによりオスの皮膚の遺伝子発現を測定した。成熟したオスのオレンジスポット部分に特異的な遺伝子発現と、体色形成を基準に設定した3つの成長段階に特異的な遺伝子発現を検出し、体色に関連する機能をもつ遺伝子を中心に発現パターンを確認した。その結果、Csf1シグナル、甲状腺ホルモンシグナル、アンドロゲンシグナル、レチノイン酸シグナルの4つのシグナル経路に関連する遺伝子がオレンジスポット形成に関与することが示唆された。
これらのシグナル経路とオレンジスポットとの関係を確認するため、各経路のリガンドや阻害剤を用いて活性を調節し、オレンジスポットへの影響を調査した。成熟したオスの飼育水にリガンドあるいは阻害剤を溶解することで2-3週間の処理を行った結果、各薬剤について特定の濃度でオレンジスポットの色味や面積など、体色の変化が確認された。これらのシグナル経路は体色形成の他にも多様な機能が知られることから、オレンジスポットはその活性を反映することで、生存力の指標として機能する可能性が考えられる。今後は、成熟前のオスへの処理からオレンジスポットの発達に対する影響を確認すること、さらにはシグナル経路活性と生存力などとの関係を調査することで、この可能性を検証していきたい。